ひまつぶし

ねっこの親ばか成長記録や御朱印巡りの記録など日々の備忘録

【小さな物語】星降る国の果ての塔

 

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 むかしむかしのことです。世界の果てに昼なお暗く鬱蒼とした迷いの森がありました。森の奥には空まで届く高い塔が立っており、塔には年老いた魔女がひとり。使い魔の黒猫と暮らしておりました。

 秋も終わりに近づいたある日のこと。いつものように塔の天辺でぷかりぷかりと行く雲を眺めていた黒猫ノアルが慌てて階段を駆け下りてきました。

「大変だよ、マリーン。風の匂いが変わった。嵐が来るよ」

「おやおや、それは大変だ。ノアルの天気予報はいつだって正確だからねえ」

 かまどの大鍋で薬草を煮詰めていた魔女のマリーンは、たいして慌てた様子もなく手を止めて、

「ノアル、森の皆に嵐に備えて準備するよう伝えて回ってきてくれないかい。嵐が過ぎるまで巣に籠って外に出ないようにとね」

と指示を出しました。

 この国では毎年、季節の変わり目ごとに何度か、こうした大きな嵐がやってくるのです。森の住人も街に住む人間たちも慣れたもんでした。それでも年によっては大きな被害が出ることもありましたので、注意するに越したことはありません。

「わかった。ぼく、行ってくるよ」

 ノアルはぐんと一度大きく伸びをすると、すぐさまぴょんっと床を蹴って高窓を飛び越え行ってしまいました。

「さてさて、薬草の準備を急がなきゃね。風で飛ばされてケガをする子がいるかもしれない。塗り薬や包帯も用意しておこう。ああ、そうだ。今夜はノアルの好きなカボチャのシチューを作ってやろうかね。冷たい森の中を走り回ってくれているご褒美だ」

 魔女のマリーンがパチンとひとつ指を鳴らすとかまどの火が大きく燃え、薪のはぜる音が勢いを増しました。

 

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 その夜、魔女のマリーンと使い魔の黒猫ノアルのふたりは少し早めの夕食を取っていました。

 マリーンは熱々のシチューを木の匙ですくいフーフーいいながら口に運んでいます。

 足元ではノアルがすっかり冷ましてもらったシチューを美味しそうに食べていました。

「やっぱりマリーンのカボチャのシチューは最高だ」

 ノアルはたいそうご機嫌です。

「それは良かった作ったかいがあったってもんだよ」

 マリーンは少し硬くなったパンをシチューに浸して優しく微笑みました。

 

 夜が深くなってきても外では変わらず、ゴーゴーと風が鳴り、バシャバシャと雨が石造りの塔を打ち付けています。

 暖炉の前の敷物の上で食後のお茶を楽しんでいるマリーンの隣で、すっかり毛づくろいを済ませたノアルは、ドスンという大きな音に驚いて、ピクリと片耳を動かしました。どこかで木が倒れたのでしょうか。

(昼間出会った野鼠の親子は無事だろうか?)

 ノアルの不安そうな気配を感じ取ったのかマリーンはひょいっとノアルを膝の上に抱き上げました。

「大丈夫。早くにお前が知らせてくれたから皆、安全なところに隠れられたさ。それにほら、風の吹く向きが変わったようだ。峠は越えた。もう大丈夫だよ、ノアル」

 マリーンは労うようにノアルの黒くてつやつやの毛皮を撫でてやりました。ノアルは気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らして目を細めます。マリーンの「大丈夫」の言葉に安心したように頷いて、ノアルは自分の前足にちょこんと小さな顎を乗っけました。

「きっと今頃森の皆もほっと一息ついてる頃さ。だからノアルもそろそろお休み。明日、晴れたら、早起きをしておくれ。皆の無事を確かめに森中をまた駆け回ってもらわなくちゃならないからね」

「うん、わかったよマリーン。明日、晴れたら、ひとっ走り森の様子を見てくるさ」

「そうだ! 明日、晴れたら、そろそろ冬籠りの準備を始めようか。塔の天辺にノアルの好きな真っ白な羽布団を干そうかね。去年の冬はお前さん、あの布団の上でいつも気持ちよさそうに寝てたからね」

「ふっかふかの羽布団! うん、塔の天辺に干そう! 風に飛ばされないように僕が見張ってるよ。そう……明日、晴れたら…ね」

 確かにあれは気持ちよかったなと、うっとりと思い出しながら、ノアルはマリーンの膝にすりすりと小さな頭を擦り付けました。

「明日、晴れたら、まだまだ仕事はあるさ。森が雪に覆われる前にたくさんの薪を集めなくてはならないよ。それから、そろそろ干し葡萄が仕上がる頃だ。瓶詰めを急がなきゃ。りんごのジャムとあわせれば冬の盛りだって甘いパンが食べられるってもんだ。おっと、きのこの収穫も急がなくては。今年は去年よりたくさんのオイル漬けをつくらなきゃいけないからね」

 ノアルには楽しそうに歌うように話すマリーンの声が、すっかり子守唄のように聞こえてきました。それは魔法のように心地よくて、どんどんノアルの瞼が重くなります。

「うん……、明日、晴れたら……」

「そう、明日、晴れたら。また、忙しくなるよ、だから…」

 ノアルがすっかり目を閉じてしまう直前、

「今夜はゆっくりおやすみ、ノアル」

と愛おしそうなマリーンの声が耳元で響いたのでした。

(おわり)

 

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いきなりどうした! と思われそうだけれどw 昔の手帳ひっくり返してたらこんなん出て来た。設定とかエピソードとか書いてあるけど、まーったく覚えてない。学生時代、ボランティア学習の延長で、手作り絵本の講習会に何度か参加したような覚えがあるけど、この手帳使ってたのだいぶいい大人になってからだし。なんでこんなの書いたんだろ? ま、せっかく見つけたんで少し加筆修正してみた。内容なんて何もない、だから何なんだってお話しですw

そういえば! 最初に飼った黒猫の名前はまんまクロだったので、これ書いたころのわたし、次、黒猫飼ったらノアルって名前にしようって思ってたんだよなってことは思い出したw なぜが今の子があずきという名前になったけどw

 

誤字脱字他色々ありましたらどうぞ心の中で笑ってやって下さいm(__)m