【小さな物語】星降る国の果ての塔 その2

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むかしむかしのことです。世界の果てに昼なお暗く鬱蒼とした迷いの森がありました。森の奥には空まで届く高い塔が立っており、塔には年老いた魔女がひとり。使い魔の黒猫と暮らしておりました。
秋の森は賑やかです。森の住人たちが皆、冬支度に向けて一斉に動き出すからです。
熊たちは冬ごもりの巣を誂え、小リスたちは木の実を口いっぱいに頬張って、巣へと運んで行きます。ヒヨドリたちは南への渡りに備えて体力をつけようと赤い実をせっせと啄んでいました。小さな虫たちはというと木の洞や落ち葉の下の土へと潜り込み、安全な巣穴の準備に余念がありません。
黒猫のノアルはそんな忙しそうな森の仲間たちを塔の天辺から眺めながら大きな欠伸をしました。
「ふあぁぁっ」
秋の真っ青な空に真っ白な雲はどこまでも高く浮かんでいます。空気は澄んで風は爽やか。お日様の日差しはぽかぽかと気持ちよく、ノアルの欠伸はとまりません。
「ひまだなぁ」
ノアルはご自慢の長い尻尾をゆらゆら揺らしながら、そうつぶやきました。
「ひまだからちょっと悪戯でもしちゃおうかな? そうだ! 塔の裏にあるかがみ池の水をあの雲に吸い取らせて雨を降らせてみようか? きっとみんな驚くぞ!」
使い魔のノアルにとってはその程度の魔法は朝飯前です。
にやにやと悪い笑みを浮かべて、ノアルはゆっくりと身体を起こしました。
その時です。
「ノアル、ノアル? 起きているならちょっと来ておくれ」
階下からノアルを呼ぶ魔女、マリーンの声が聞こえてきました。
「なーに?」
のろのろと石造りの階段を下りて来た黒猫のノアルを、魔女のマリーンがそっと抱き上げました。それからそのふわふわの毛に顔を埋めて「お日様の匂いがするね」と笑いました。
束縛を嫌うノアルはするりとマリーンの手から抜け出して、音もなく床の上におり立ちました。それから不機嫌そうにマリーンを見上げます。
「何か用事があるから僕を呼んだのでしょう? これでも僕は忙しいんだ。用事がないならもう僕行くよ?」
「そうかいそうかい。忙しいところ悪かったね、ノアル。お前にちょっと頼みたいことがあってね」
「頼みたいこと?」
「そうさね、裏のかがみ池のほとりの林檎の木から、良さそうな実をこの篭いっぱいに取って来てほしいのさ」
「林檎の実?」
「今夜のデザートにはアップルパイを焼こうと思ってね」
「おー! アップルパイ!」
ノアルは途端に顔をほころばせ嬉しそうに叫びます。アップルパイはノアルの大好物のひとつなのです。
「それからコンポートにして瓶詰めも作りたいから、篭いっぱいに頼むよ」
「ほいきた、まかせといてよ、マリーン。僕、すぐに行ってくるから! すぐだよ! 僕の魔法なら篭いっぱいの林檎を採って来るなんて簡単なんだから!」
ノアルそう言ってアケビの蔓で編んだ篭を咥えると塔の外へと走り出して行きました。
そんなノアルを見送ってマリーンは「やれやれ」と肩を竦めました。
「そろそろ退屈を持て余してる頃だと思ってたんだよ。まったく、ノアルはいつまでも悪戯っ子で困ったものだわ」
苦笑いして、魔女のマリーンは石造りの大きなテーブルに戻り中断していた作業を再開しました。
作っていたのはオレンジのポマンダーです。小さなオレンジにたくさんのクローブの実を挿して乾燥させ、年の終わりの聖誕節に魔除けとして飾るのです。これも冬支度のひとつでした。
「それにしても忙しいこと」
マリーンの占いでは今年は雪も多く寒さの厳しい冬になると出ていました。雪が降り始める前にやらなければならない事はたくさんあるのです。
今年はきのこが豊作だったので塩漬けやオイル漬けを作る予定でした。それから、何日もかけて干していたドライフルーツもそろそろ出来上がる頃です。このドライフルーツとこちらも今年豊作だった木の実をたっぷり入れたシュトレンを焼く日も近いでしょう。
「ノアルが悪戯に魔法を発動する前で良かったこと。もしも気まぐれに雨でも降らせたりされてたら、せっかくの干し葡萄が台無しになるところだったわ」
マリーンがオレンジの表面にクローブを挿し込む度に、不思議に甘いクローブの香りと甘酸っぱいオレンジの香りが辺りを満たしていきました。

もうすぐノアルが篭いっぱいの林檎を持って帰ってくることでしょう。
そうしたら約束通りノアルの大好物のアップルパイを焼かなければなりません。焼きあがったアップルパイを見て、金色の瞳をまん丸にして舌なめずりするノアルの姿を思い浮かべ、マリーンは自然と微笑んでいました。
それから、林檎のコンポートを作って瓶に詰め、林檎がまだ余っていたらジャムを煮ましょうか。真っ赤な皮ごと煮詰めれば薄紅色の可愛い林檎ジャムの出来上がりです。
赤々と燃える暖炉の前で、たっぷりの林檎ジャムを焼きたてのパンにのせ、ノアルと二人、仲良くわけあって食べる冬の朝を思い浮かべると、冬の訪れがちょっとだけ楽しみになるマリーンなのでした。(おわり)
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その1が設定とかあいまいに書いてしまったから世界観が良く分からなくなってるw書いてて楽しかったので、まあ、いっか! いつか設定とか世界観とか行き当たりばったりでなくちゃんと作り込んで書き直す! …かもしれないし書き直さないかもしれないし(⌒∇⌒;
誤字脱字他色々ありましたらどうぞ心の中で笑ってやって下さいm(__)m